とりあえず真っ当な道は後回し。
獣道やら天井裏やら抜け道やら、果ては到底道とは言えぬものの方が却って確率は高い。
ひとまず彼らの目指していた目的地への反対方向を探し始める。
「ったく、あいつら毎度毎度…」
作兵衛は舌打ちをしながら道なき道を掻き分けて進む。
毎度の事ながら方向音痴で迷子常習者である級友二人の捜索隊なのである。
どうやったら迷えるんだという距離と単純な道のりで、綺麗さっぱり足取りが途絶えるのはある意味で見事だろうと感心でもしなければやってられない。
もう何度目になるかわからぬ捜索にイライラを募らせながらも、回を追うごとに見つけるのが上手くなっていく自分を否定できない。
「あーあ、迷子を見つける技ばっか磨いてどうするんだよ俺…」
そんなもの実技のテストにもならない。
数えるのもとっくにやめたため息をついた時、目の前の枝ががさりと揺れた。
「うおらあああ!」
一人目を捕獲。二度とはぐれないように迷子紐をくくりつけてやる。背後から抗議が聞こえるが作兵衛は耳をふさぐ。
「あとは、三之助か…。ったく…どこ行きやがったんだよ」
「なんだ?あいつまた迷子なのかよ」
「お前が言うなー!」
なんの根拠もなく明後日のほうへ駆け出していこうとする左門の迷子紐をぐいっと引っ張って阻止をする。
正しい道は一つでも迷子のバリエーションは無限にあるのだ。その中から正解を見つけるのは至難の業だ。
「あーあ、今日飯食えるかなー」
「手分けして探せば?」
「本気で言ってんのかてめえは!」
一人は見つけたというのに、一気に疲れが増した気がする。
とにかく左門を保護したままで三之助を早く探さねば、と気合を入れなおしたところで。
「あ、いたいた。ほら、作。こいつお前の級友だろ」
「…せっ…先輩〜?」
「あ、三之助ー!」
「おー左門お前また迷子だったのかー」
「「お前が言うな!!」」
いきなり場が混乱しているが、作兵衛と左門の元へと現れたのは、捜索対象である三之助を連れた食満であった。
何故食満が三之助を連れているのかとか、何故ここにいるのかとか、色んな疑問が頭を渦巻くがとりあえず最初は相変わらず自覚のない三之助に突っ込みを入れることが先決であった。
「あー、実習帰りなんだが、迷子を見つけてな。きっと作が探してるんだろうと思って、連れて来てみたんだ」
それは有難かったし感謝をしたいが、それでもどうしても腑に落ちない。
自分は方向音痴ではないが、二人を探して道なき道を歩いていたのだ。やすやすと見つけられるとも思えない。
「うん。どうせそっちの奴も探してるだろうと思ったから。俺も神崎を探すつもりで来てみたらどんぴしゃだったな」
まるで暗号文を上手く解読できたみたいな顔をした食満に作兵衛は少し笑った。
「ほんと良く分かりましたね。左門見つけるのだって相当大変だってえのに」
偶然にしても凄い事だと感嘆していたら、食満がにやりと笑って耳打ちをする。
「実は俺も迷子を捜すのは得意なんだ」
「え?」
「俺の場合は伊作だがな。アイツは方向音痴ではないが、たまたま大風で道標が逆を向いていたとか、見方の目印が蹴飛ばされて落ちていたとか、地図が汚れていたとか。あと本人が足を滑らせて転がり落ちるとか…」
「…はぁ」
としか返事のしようのない不運さである。
「まあそんな訳でとんでもない所に行ったり、行方不明になることなんてざらだったもんでな」
それを探しに行くうちに迷子捜索のスキルはあがっていったのだと言う。
「それを応用すれば、今回みたいに『迷子を捜してる奴を探す』事もできるって訳だ」
にっと笑った顔はイタズラめいている。
「先輩も大変ですね…」
思わず口を付いて出た感想に、そうでもないぞと返された。
「結構役に立つぞ」
「え?」
そんなまさか。こんなに無駄なスキルもないと思っていたのに。
「迷子探しと言うとアレだけどな、『行方不明者探索』と言えば聞こえがいいじゃないか」
「そんなもんですかねえ」
「ああ、四年か五年辺りの実習でめちゃくちゃ役に立つぞこれ。俺もあの時は伊作に感謝したくらいだ」
そう言われると目から鱗が落ちたかのようだった。
確かに手裏剣投げやマラソンなどの実技には役立たないかもしれないが、この先行われるだろう実習では何かを探すというのは有効な特技かもしれない。
いや、何より経験者がそう太鼓判を押すのだからそうなんだろう。
なんだか突然酷く前向きになってきた。これからもきっと毎日のように迷子になるだろう級友達に感謝をしたいくらいだ。
「じゃあ、これも修行ですかね」
「そーかもな」
へへへっと笑って言ったらそのまま肯定してくれて、とても嬉しくなって鼻の下を擦る。
夕飯にも間に合いそうだし、先ほどまで途方にくれていた気分がすっきりと晴れ渡っているのが分かる。
「さー、帰るか。お前ら絶対はぐれるなよ!」
「大丈夫ですよー。さ!近道して帰りましょう!」
「学園ってあっちですよね」
「ってお前らー!!言ってる端から逆に向かうな!!」
走り出しかける左門は作兵衛が紐をがっしりと引き、三之助の首根っこは食満が掴んで危ういところで捕獲しなおす。
「ったく…もしまた迷子になっても、ぜってえすぐ見つけてやっからな!覚悟しとけよ!」
「お、めずらしー」
「いっつも、『もう二度と探してやんねー』って言うくせに」
「なー」
「うううううううるさい!」
三年生三人がわいわいと騒ぐのを食満は後ろから笑ってみていた。
左門に巻きつけられた紐を眺めて、いつか迷子捕獲専用の縄でも開発してみようかと考えて、それを作兵衛にもちかけるのはまた後日の話であった。