いつもにこにこと笑っているしんべヱが、眉をハの字にしてなんだか悲しそうにしている。
偶然通りかかった善法寺は少し気になって声をかけることにした。
「どうしたんだい?」
「あ、善法寺先輩ー。なんかちょっと悔しいなあって思って」
「何が?」
しんべヱの視線の先を追ってみればそこにいたのは善法寺の級友で、しんべヱの委員会での先輩の姿が見える。
どうやら三年生と何かを相談しているようだ。
「留三郎?何かあったの?」
何かやらかして怒られでもしたのだろうかとも思ったが、そうではないらしい。
「んとですね…平太はなんか、秘密の場所があってそこで食満先輩と会ったんですってー。喜三太もせんぱいになめくじ沢山いる場所教えてもらったって言ってたし…。富松先輩はこの間から新しい用具作るって二人で相談してるし…」
言いながらもう一度ちらりと食満と富松の二人の方を見た。下がりきった眉に善法寺は「ははあ」と納得をする。
「しんべヱは、悔しいていうか寂しいんだね」
「…はい…なんか僕だけ先輩と一緒にお話できる事ないみたいなんだもん…」
善法寺もちらりと食満を見る。もししんべヱがこんな事を言ってると知ったらどんな反応をするのか手に取るように分かる。
それにしても、随分慕われちゃってまあ。
くすっと笑って再びしんべヱへと視線を落とした。
そんな事ないと言ってやるのは簡単だし、他の者達だってただの偶然から起こった事なのだが、なんとなく気後れしてしまうのも良く分かる。
だから、ほんのちょっとだけ背中を押してやる事にした。
「ねえ、しんべヱ。いいこと教えてあげるよ」
「…なんですか?」
「あのね」
内緒話をするように、声を潜めて耳元に手を当てて。
「留も、君と一緒でおまんじゅう大好きなんだよ。一年生の頃はよく一緒にお茶屋さんに行ったなあ」
取って置きの秘密を打ち明けるように。そうすれば。
「本当ですか?」
あっという間にしんべヱの目が輝いた。
「勿論」
大きく頷くと更に輝きは増す。
「僕、新しくできたおいしいおまんじゅうやさん知ってます!」
「それはいいね。最近は忙しくてあまり食べてないはずだから、きっと留三郎は知らないよ」
「じゃあ、僕教えてあげますー!」
二人で顔を上げると、丁度食満と富松の話が終わった所のようだ。
「ほら、行ってきなよ」
「はい!」
軽快に…とは行かないもののまるで鞠をついたように一目散に食満に向かって駆け出していく。
「せんぱーい!一緒におまんじゅう食べに行きましょう〜」
面食らった顔をしながらも、一瞬後には破顔してしんべヱを迎えた食満に、少し離れたところから善法寺は小さく手を振った。
しんべヱのことだからきっと、それはとびきり美味しい饅頭に違いない。当たり前のように皆にお土産を買ってきて、委員会で食べるんだろうと簡単に想像がつく。
「一応食べすぎ注意って釘刺しておこうかな」
老婆心を覗かせながら、善法寺はその場を立ち去るのであった。