ひざま くら(仙留編)

 

 

わざわざ呼び出されて、仙蔵の部屋へと向かったのに、そこには誰もいなかった。
まあ、そのうち戻ってくるだろうと、暫く部屋で待つことにする。
そのうちどころか、留三郎が腰を下ろしてすぐに、若干荒れた足音が響き、すぱんと戸が開けられた。
「おお、仙蔵。一体何のよ…」
「足を崩せ」
「は?」
用件を聞こうとする留三郎を遮って、不機嫌そうな仙蔵がただそれだけを発する。
思わず聞き返したのも無理はないが、それすらも不機嫌を助長したように仙蔵の眉が寄った。
「足を崩せといっている。それから楽な姿勢をとれ。ああそうだ、そこの柱に背中を預けるといい」
言い返す暇も与えず次々と飛んでくる言葉と、強引に引かれる腕。
あれよあれよと言う間に留三郎は柱に背中を預けて足を伸ばして座り込むような姿勢をとらされてしまった。
「足は閉じても広げても、お前の楽なほうでいいぞ」
はあそれはどうもお気遣いいただいて…そんな返事が出てくるわけもない。一体何がしたいんだコイツはという目を隠しもせずに留三郎はまじまじと仙蔵を見 た。
「それでいいのか?では、この足、借りるぞ」
留三郎の視線を全く意に介さず、自分のやりたい事だけを貫き通す。
文句を言っても仕方がないとは思いつつも、流石に次の行動には平静を保つわけにもいかなかった。
「ちょっ!仙蔵!何してんだ!」
「動くな。頭が揺れるではないか」
「あ、ごめん。ってそうじゃなくて!なんでお前は俺の膝に頭載せてんだ!」
「膝じゃない、太腿だ」
「真顔で言うな」
尚もわめく留三郎を無視して仙蔵はコロりと横向きになる。
半分背中を向けた仙蔵に、諦めたように改めて体勢を整えた。
 
「仙蔵?」
かけた声に返事はない。けれど寝入っているわけでもない。
膝を貸せと言った割には仙蔵の体からは力が抜ける事はなく、留三郎に完全に体重をかける事をしていない。
背中から出るわずかにぴりぴりとした雰囲気に、留三郎は小さく噴出した。
「何だ、お前、拗ねてんの?」
「…うるさい」
不機嫌そうに帰ってきた返事は拗ねきった子どもそのものだ。
肩を震わせて笑う留三郎に、仙蔵は再びくるりと向きを変えてキツイ視線を向けてきた。
けれど、そんなものなんの威嚇にもなりはしない。留三郎にとっては子どもが意地を張っているようにしか思えない。
 まったく、何があったか知らねえけど…
こんな事で彼の機嫌が直るというのなら、幾らでも貸してやるのに。
留三郎は仙蔵の頭をぽんぽんと叩く。それは幼子にするような動作であったが。
仙蔵のささくれたった感情が次第に凪いで行く。
いつしか彼は目を閉じて、心地良さそうな満足げな表情を浮かべていた。
「…仙蔵、寝たのか?」
「…いや」

「あのさ」

「何だ?」

「俺も疲れてんだ、あとで交代な。お前の膝、貸せよ」
くすくすと笑いの混じった声に仙蔵が目を開く。
そこに映ったのは想像通りの笑顔。
「膝どころか、腕でもいいぞ。なんなら今すぐにでも」
「!!…ばーか」
やはり、仙蔵に口で勝つのは難しいと、呆れながらも笑顔がこぼれてしまうのであった。
 
 
 
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強引仙蔵×照れ屋留
 …に見せかけて
案外お子様仙蔵×母性留