突然始まり唐突に終わります。
 
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これはもう限界かもしれない。なんとか間に合うように戻りたかったのだが…。
そう思って食満が空を見上げた途端にぽつりぽつりと雨が降り出してきた。
瞬く間に勢いの強まった雨に、傍らの小さな体の手を引いて走り出す。
「喜三太、急ぐぞ。走れ!」
「はあ〜い」
後ろを付いてくる気配を気にしながらぱしゃぱしゃと水音を立てていると、ぴしゃん!という一際大きな水音に、小さな叫び声。
慌てて踵を返して、水溜りに足を取られて盛大に転んでしまった喜三太を助け起こした。
辺りを見回し手近な祠の軒下に走りこむ。
顔から突っ込んだのか泥だらけになった喜三太の顔を丁寧にぬぐってから食満は恨めしそうに空を見上げた。
「しょうがないな、ちょっとここで雨宿りさせてもらうか」
「はにゃ〜。あ、なめさんみっけ〜」
少し憂鬱ぎみな食満に比べて、喜三太はマイペースである。そんな様子を見ていたら別にそう急がなくてもいいかなと余裕が生まれる。焦った面持ちで見上げる空と、落ち着いた心で見渡す雨の景色は似て異なる物に見えた。
「雨、やみませんねー。あ、またナメさんみーっけ」
「ああ、そうだな…」
のんびりと待ちつつも一向に止む気配のない雨に少しだけ困ったなと思っていると。
「…文次郎…」
いつのまにか目の前に不機嫌な顔をした男が立っていた。
「お使いの帰りか?」
忍服ではなく通常の服に傘を差している事から私用で出かけていたのか、お使いで変装でもしていたのかは分からないが、ともかく学園に帰る途中なのだろう。
何にせよ、食満が話しかけても何も言わずにこちらを睨んでいるので流石にイライラとしてきた。
「おい!貴様一体…」
いつものようなけんか腰になりかけたところで、突然にぐいと押し付けられたのは文次郎がさしている傘であった。
「は?」
「ん!」
相変わらず何も言わずに不機嫌そうな顔のまま、ぐいぐいと押し付けられて、反射的にその柄を握れば、その瞬間離れていく文次郎の手。傘が落ちそうになって慌ててしっかりと持ち直してしまった。
「あ、おい!」
一瞬気を取られた隙に、既にもう文次郎の姿は見えなくなっていた。
傘を手に、一体なんだったんだと呆けて立ち尽くしている食満を喜三太が不思議そうに見て漸く我に返った。
もしかして、これは傘を貸してくれた…のだろうか。
確かに、喜三太を連れているのではっきりって有難いが。もう少し言葉を使っても良かったのではないだろうかと思う。まあそこも文次郎らしいなとは思ったのであったが。
「喜三太、これ使わせてもらって帰るか」
「はーい」
なめくじを沢山見つけて機嫌の良い喜三太はにこにこと食満と同じ傘の中に入る。
二人でゆっくりと歩きながら、ふと上を見上げた喜三太はおかしそうに指をさした。
「せんぱい、この傘穴だらけですね」
「ん?ああ、そうだな」
少しぼんやりとした返事をしながら、食満もちらりと傘を見ると、確かにボロボロでところどころ穴が開いている。
― ったく、どんな使い方してるんだアイツは 
それでも、そんなボロボロの傘でもないよりは断然マシで、いまだ強く降る雨の中を走っているであろう文次郎を思い浮かべて、なんとも複雑な思いを抱きつつ学園への道のりを歩くのであった。
 
 
 
「まったく、傘でも調達すれば良かっただろうが、この馬鹿文め」
「っせーな、途中で失くしちまったんだよ」
「ふん、どうせお前の事だ乱暴に扱って壊したのだろう?」
「ちげーっての」
「どうでもいいからそんなびしょぬれで部屋に入ってくるな。風呂にでも入って来い」
文次郎が同室の仙蔵とそんなやりとりをしている頃、食満と喜三太もまた学園へとたどり着いていた。
転んで衣服も汚れてしまっているので、すぐに喜三太を長屋へと返し、食満はまず自室へ向かった。
同室の伊作は居ないようだったが、きっとまた医務室にいるか学園中の厠を巡っているのだろう。
食満はどさりと部屋に座り込むと、今まで使っていた傘を広げて丁寧に水をふき取った。それから、穴を一つ一つふさいで、破れた箇所も丁寧に修繕していく。それらを手際よくこなしてあっという間に作業は終わった。
修繕の済んだ傘を持ち、食満は部屋を出る。向かった先はこの傘の持ち主の部屋である。
けれども、そこには目当ての人物はおらず、同室の仙蔵が機嫌悪そうに座り込んでいるのであった。
「どうした?」
「文次郎は?」
「ああ、やつなら風呂だろう。この雨の中びしょぬれで帰ってきたからな」
つっけんどんな物言いも慣れたもので気にはならない。仙蔵が雨の日に火薬がしけると機嫌が悪くなるのはいつもの事だ。
そうか、と思案して持っていた傘を仙蔵に預ける事にする。
「何事だ?」
「あー、さっき道端で文次郎に借りたんだ。こっちは喜三太と一緒だったからな。正直助かった」
食満の説明と、先ほどの文次郎とのやり取りを思い出して、仙蔵はにやりと笑った。不機嫌など忘れてしまったかのようだ。
「なんだ、そういう訳か。しかしそんなぼろ傘、人に貸せるものでもないだろうに」
「ないよりはマシさ。一応修繕はしておいた。まあ…一応礼は伝えておいてくれ…」
「分かった」
仙蔵のにやにや笑いはますます濃くなっていく。その顔が雄弁におもしろいと語っていて、食満はいたたまれなくなって傘を仙蔵に押し付けると踵を返し足早に廊下の向こうへと去ってしまった。
それを見送って、しばらく仙蔵は薄く笑っていたのだが、食満の去った反対の廊下から伊作の声が聞こえてくる。
「あれ?文次郎?何してんのこんなとこで。風呂上り?早く部屋行かないと風邪ひくよー」
「う、うるせえ!風邪なんかひくか!即鍛錬だ!」
「え〜、雨なのに〜やめなよ」
その後不運にも雨漏り箇所で足を滑らせた伊作が落とし紙をぶちまけるのを目撃するよりも前に、仙蔵は腹を抱えて大爆笑をする事となったのだった。
 
 
 

で?っていう…。
もうお分かりかもしれませんが、アレです となりのトト○のパロです。あのシーンが文次郎と食満と喜三太にしか見えなかったんです。
…この時代傘は差すよりかぶるだろうというのはまあ、パロだから!落乱だから!でスルーしましょう
と言うわけで、カン太→文次郎、サツキ→食満、メイ→喜三太でお送りいたしました。
仙蔵は役柄的にはカン太のお母さんですが…まあそれはさておき。
文次郎はカン太並みの愛情表現でいいと思うよ。
6年生の授業にもぐりこんだ喜三太がなめくじの絵を描いててもいいかと思いましたが一体どんなシチュエーションだそれと言うわけで断念。
…ていうか本来喜三太はサツキの年齢の方が近いと思うんだがなー
 
このまま更に、しんべヱ→トトロ、七松→ネコバスとかいう配役をしていくと何がなんだかわかんなくなりますのでやめときます。
しんべえの腹にしがみついたり、食満を担ぎ上げた七松が裏山を物凄い全力疾走をかます図とかを想像するだけにとどめておきます(充分腹筋崩壊)