| いつもよりは格段に仕事の少ない用具委員会の活動。 それでも、普段よりも時間がかかってしまっているのは、この手もかじかむ寒さのせいか、委員達に若干覇気がないせいか、はたまた要の人が居ないせいなのか。 傾きかけた太陽が空を橙に染めはじめ、身を切る寒さが染みる頃、ようやく終わりの見え始めた活動ではあったが。 「…痛っ」 小さくあがった声に同級生が覗き込んでくる。 「どうしたの、平太」 「ん…ちょっと指挟んじゃった」 「あー、手冷たい時に挟むといつもよりもいたいよねえーだいじょうぶ?」 「うん」 少し赤くなった指先にふぅっと息を吹きかけて平太は喜三太に少し笑顔を見せる。 「どーしたー?」 そこへやって来たのは今日の委員会を一生懸命に率いている三年生。 「あ、富松先輩ー平太が指挟んじゃったんですー」 心配そうなしんべヱの報告を聞いて、作兵衛が慌てて平太の手を取る。 「大丈夫か?見せてみろ」 少しだけ赤くなっているものの切れたり擦れたりはしていないのを確認してホッとした顔を見せる。 そうして、掴んだ指先の冷たさにちょっと顔をしかめた。 「手がかじかんじゃって上手く動かなかったんだろ」 両手で包むようにしてがしがしとこする作兵衛の手は、いつもそうしてくれる委員長の手よりは幾分小さかったが充分に平太の手を覆う大きさだった。 「おーい、しんべヱ、平太の手握っててやれ〜お前の手あったかいから」 そう言われて平太の手を握ったしんべヱの手は確かに暖かい。 「え?ほんと?僕も僕も〜」 横から手を出してきた喜三太もがっちりと掴み、三人で団子のように手を掴んでいる様が妙に微笑ましくて作兵衛はうっかり和みかけ、慌ててぶんぶんと首を振る。先輩の気持ちが分からなくもないなと思ってしまった事を否定しながら両の手を三人に向けた。 「いいか、寒い時にはな・・・こうして」 左右の手の指先をそれぞれ親指同士、人差し指同士と合わせていく。 五本全ての指先をつきあわせて。 「まず親指をこうやって押し合うんだ、それから人差し指」 順繰りに小指まで力を込めていく。 「最後に全部の指を押し合いして…あ、掌はつけちゃ駄目だ指先だけだぞ。それからまた親指から順番に」 数回同じ事を繰り返してから手を放す。 「こうするとな、手がぽかぽかしてくるんだ。寒い時作業前にこれやって、手が冷たくなってきたらまたやるといいぞ」 目の前で実演されたそれを、一年生三人は不器用ながらに実行してみる。むずかしい〜とくすくす笑いつつ数度繰り返した後にまじまじと自分の手を見つめて言った。 「わぁっ本当だ!手ぇあったかくなりましたー!」 「…すごいです」 「うわあん僕指短くて上手くできなかったー。でもちゃんとあったかくなった!」 今まで寒さに縮こまっていた指先をぎゅっと曲げたり伸ばしたりしながら興奮気味な三人に、作兵衛はへへっと指で鼻の下をする。 「これ、前に留三郎先輩から教えてもらったんだ」 「そうだったんですかー。うわあ、ほんともう指寒くないよー」 きゃっきゃと笑い合う一年生達は、ふと作兵衛を見上げた。 「先輩は、今実習行ってるんですよね?」 「明日帰ってくるって聞きましたけど」 「……やっぱり上級生の実習って大変なんですか?」 顔に張り付いた『心配』の文字に作兵衛は、ニッと笑って、己の心の内の心配を押し隠す。 「ああ、明日の日の出までには帰るって言ってたぞ。そう、六年生の実習って大変なんだ。でも帰って来て仕事残ってたら、留三郎先輩の事だから休まないで仕事しちゃうと思わないか?ほら、帰ってくるまでに全部片付けちまおうぜ!」 「はいっ!」 その言葉に弾かれたように三人は飛び上がって残りの仕事に手を付け始めた。もうかじかんでいない指先はいつも通りに器用に動き、疲れて帰ってくるだろう先輩に一つも仕事を残さない為に、作業に没頭するのであった。 「喜三太っ!なんでそんな事言うのー!!」 「だってだって、そう聞いた事あるんだもんー!」 「じゃあどっかで……」 「うわーんそれ以上言っちゃ駄目ー!」 「もう、ヤメなよ!」 「でも。きっと危険なんだよね」 「だからどうしてそんな風に言うのさ!!」 「ちょっ、ちょっと、皆ー」 夜更けの忍たま長屋で、この時間にふさわしくない喧噪が繰り広げられていた。 あまりの騒がしさに他の学年の長屋からも何事かと顔をだす者もいる。 「まったく!夜中に騒がしいんだよ!さすがアホの一年は組だな!」 「あれ?は組だけじゃない。い組もろ組の連中もいるじゃないか」 「はあ?何やってるんだよ一年は!」 「たぶん、は組の騒動にい組とろ組が巻き込まれてるんだと思うー」 二年生の生徒達が長屋を覗き込めば、その隣には二人の三年生。 「何してるんだろうねえ」 「まったく…」 「なんだ、騒がしい。夜行性の毒虫達がおどろくじゃないか」 「あ、孫兵ー。虫の散歩?」 一人増えたかと思えば、更にもう三人が飛び込んで来た。 「こらー!!お前ら一人で厠行くな!どうせ戻って来れねーくせに!って、あれ?なんだ騒がしいな。どーしたんだ?」 三年長屋から厠へ行くにはここを通るはずも無いが、この二人にそんな事を言っても無駄だろう。そしてそんな二人を追いかけて来た苦労人は、この喧噪に気がついて目を丸くしている。 どうしたのかと問われても答えようもなく肩をすくめた野次馬達。 もう一度騒ぎの方を良く見れば、どうやらその中心にいるのは己の後輩達のようで、作兵衛は慌ててそちらへと駆け寄っていく。 「しんべヱ!喜三太!お前達どーしたってんだ?」 大騒ぎをする一年生の中心にしんべヱと喜三太。そのすぐ隣でいつもよりも顔を更に青くした平太がおろおろとしている。 そうして、彼らの周りを取り囲むように他の一年生達が口論をしていたのだった。普段おっとりとしいるしんべヱにしては珍しく眉を上げて喜三太を睨んでいる。 「あ!せんぱーい!聞いてください!」 上級生の介入にやっと少しだけ落ち着いたしんべヱが語ったことには…。 時は少しさかのぼる。 身支度を終え、後はすっかり寝るだけになったしんべヱは寝る前に小用を済ませてしまおうと部屋の扉に手を掛けた。 「ちょっと僕トイレ行ってくるねー」 「あ、私もいくー」 「俺も俺もー」 同室の二人も着いてきて結局三人連れ立って廊下へと出た。 すると、まるで機を計ったかのように別の部屋の扉が開いてひょこりと顔が出てきた。 「あ、三人ともおトイレ行くのー?僕も一緒に行く」 さも偶然の様に言ってきた金吾に三人はニヤニヤと笑う。 「あ〜、金吾一人で行くの怖かったんでしょ〜」 「俺達が行くの待ってたなー」 「ち、違うよ!偶然一緒になっただけだってば!」 顔を真っ赤にして金吾が言い返せば、先ほど彼が出てきた部屋からひょこりと同室の喜三太が顔を出す。 「あ、金吾怖かったんだー。言ってくれれば一緒に行ったのに〜」 「違うってば!!」 ぎゃいのぎゃいのと廊下で微笑ましい言い合いを繰り広げて、乱太郎がやれやれと空に目を向けたときに。 視界の端を掠めて飛ぶ光が見えた。 「あ、流れ星だー!」 「え?どこどこ!」 途端に言い合いなどさっぱり忘れて、空を懸命に探す五人。乱太郎が見つけた流れ星は既になかったが、その後ぱらぱらといくつかの星が空に流れるのがその瞳に見えた。 「うわあ!」 目を輝かせる一堂に、「銭銭銭!」と早口でまくし立てるきり丸。 「もーきり丸ったらー」 と呆れる声もいつもの事。 けれども。 こんなとき一緒になってはしゃぎそうな喜三太は、空をぼーっと見上げて不安げな目を向ける。 「喜三太?」 てっきりいつものようにナメクジがらみのお願い事でもするかと思っていたのに不審に思った金吾が彼を覗き込む。 「星が…流れると、人が死ぬんだってひいひいばーちゃんが言ってた…」 零れ落ちるように呟かれた一言に、一堂はしんと黙り込む。 その静寂を破ったのはしんべヱの泣き出しそうな声。 「じゃあ、今誰か亡くなったって喜三太は言うのー?どうしてそんな事言うのー?」 しんべヱの顔に鼻水以外に水分が落ちる。 「しんべヱ…」 「今、一つじゃなくて、沢山流れ星飛んだじゃないー!あれも誰かがって言うの?」 いつものしんべヱの口調からは考えられないくらいに必死でまくし立てる様子に、乱太郎もきり丸も金吾もそして喜三太もその心の内は分かってしまう。 一生懸命考えないように、いつもの楽観的な心で待っているけれども。 それでもやっぱり心配なのだ。 今、学園に居ない先輩達の事が。 それなのに、そんな不吉な事を言わないでほしいと、軽く流せない気持ちは分かる。 自分達も同じ気持ちで、少しだけ非難するような目を喜三太に向ける。 「でも…そう聞いたんだもん…」 先ほどよりも小さな声でもう一度それを言う。 またそれに反応をして、小さな騒ぎになって他の級友達やそして別の組の者まで集まる大騒ぎになってしまった。 「そんなの迷信に決まってんじゃん!先輩達はすっごく優秀なんだぞー!」 「は組はこれだから!上級生の実習はすごく難しいの知らないのか?」 「じゃあ、先輩達が失敗してるって言うのかよ!」 「…そんな事言ってないだろ!でも確率としてだなあ」 「言ってるじゃないか!」 「…人生何が起きるかわからないし」 「何でそんな暗い事考えるのさ!」 一年生全体を巻き込んでの言い合いに、等々他の学年までも駆け付けてきて今に至る。 いつの間にやら話が少々ずれてきている事におそらく本人達は気がついていない。 それほどに、皆心の内では気になって仕方のない事だったから。 結局の所、心配だから不吉な事を言うなと怒る者と、心配だからこそ悪い方へと考えてしまう者と、方向が違うだけで思いは同じなのだ。 大まかな流れを聞いて、作兵衛は大きなため息をつく。横で聞いていた二年生達や他の三年生も同様だった。 「まったく…」 「…昔の自分達見てるみたいで嫌になっちゃうよな…」 誰が呟いたのか、そんな台詞を否定する者は居なかった。 なぜだか、上級生の重要な実習が行われるこの時期にふと空を見上げると星が流れる事が多い。 普段なら目を輝かせるそれも、そんな時だから余計な不安が煽られてしまう事はこの場に居る二年生三年生にも少なからず覚えのあることだった。 「はははははっ、この優秀な平滝夜叉丸はそのような世迷い事を真に受けて騒ぐ事などなかったがなあ」 背後から突如聞こえてきた時間も弁えない高笑いに、その場の二年三年…特に三年生がげんなりとした表情を浮かべ誰も反応はしなかった。 「ふんっ!泣き喚いていたのは誰だ!」 「そのような記憶はないな。大騒ぎしていたのはお前だろう田村三木ヱ門」 何時の間にか増えていた人数に、騒がしさは一気に数倍となる。 例によって例のごとく不毛な言い争いを始める四年生の名物コンビの更に後方で、首を傾げる者が一人。 「えーっと、三年前に流れ星って不吉なんですかー?と鼻水垂らしてなきついてきたのは滝夜叉丸だっけ?三木ヱ門だっけ?」 「雷蔵、涙と鼻水垂らして狼狽してたのが滝夜叉丸で、星が流れないように泣きながら空に砲弾連発してたのが三木ヱ門だよ。ついでに言うと喜八郎は何時もの四倍の落とし穴掘ってた。落ちて来た星捕獲用だってさ。」 「…おやまあ記憶にありませんが」 いつの間にやら学園にいる全学年が集まってきている事に、漸く騒ぎの元凶である一年生達も気がついて口論が一旦収まった。 一瞬だけ静まり返ったその場に落ちる声。 「でもさー、僕もそれ聞いたことあるよ。それに実際僕が夏に流れ星見た時は流行り病がおこった時だったし、このくらいの時期に見た時は…寒さで町外れのお年寄りが…」 忍術学園外の経験を語るタカ丸に、やはりその噂は本当なのかと青ざめる下級生達。 しかしタカ丸の頭をぱしーんと景気のいい音をさせて小突いた…というよりもツッコミをいれたのは久々知兵助だった。 「タカ丸さん、空気読んで」 「だって〜」 まだ何か言いたげな彼を制して兵助は困ったように眉を寄せた。それから、少し大きめの声で。 タカ丸だけでなく、一年生達にも聞こえるように。 「タカ丸さんはまだ習ってなかったかもね。うん、確かにそれは偶然じゃない」 向こうから、ひゅっと息を飲む声が聞こえたけれども、それを気付かぬ振りで。 「夏に流行り病が出るのも、冬に凍える寒さが来るのも毎年の事。それはいつも起こってる事だよ」 それよって起こる事態は言葉をにごす。 「それでね、どういうわけか知らないけど。たまたまその時期には流れ星がよく見えるんだよ」 「そうなの?」 「そう。夏とか冬にそんな事になるのは偶然じゃない。夏と冬に流れ星が飛ぶのも偶然じゃない。でも、流れ星が飛んだときにそんな事になるのはただの偶然」 だって、夏になっても流行り病が起こらないことだってたまにはあるだろう?とまるで一年生を諭すような口調で言う。 その背後にはいつの間にやら一年生達がわらわらと群れていた。 「それ本当ですかー?」 「ほんとうだよ。大星やかにの目星の辺りを目印に見ててごらん。星が沢山飛ぶ。夏なら錨星やとかき星の辺りをね。ちなみにこれ知ってると天動地動の術に応用きくぞ」 だから、心配しなくてもそんなのはただの噂だからと、五年生がにっこりと笑う。 「大体さー、この大騒ぎに先生達一人も来ないだろ?」 ニヤリと笑ったその顔はちっとも雷蔵ぽくはなかったので、これはきっと三郎だ。 「毎年毎年おんなじ事繰り返してるんだもんな」 「恒例行事みたいなものさ」 一年生が心配をして、その不安を上級生が取り除く。それは毎年繰り返される事。 まだその記憶も生々しい二年生や三年生は少し決まり悪そうに目を泳がせる。 「ほらほら、不吉じゃないって分かったらもう一回空を見てごらんって」 言われて見上げた空に、また一つ星が流れる。 「うわあ、今の明るいっ!」 上がる歓声。そして。 「俺、ずっと不思議だったんだよな。いくら時期が重なるからって、あんな綺麗なのにどうして不吉な例えするんだろうって」 夜の闇を裂くような明るい声。 振り向けばにこにこと笑ったもう一人の五年生。 「あ?ハチ、お前俺らの説明聞いてたー?」 「聞いてたけどさ。だって俺、ばーちゃんに聞いたのは違う迷信だったんだよねー。 星がぱっと光って流れてくのは。誰かがどこかで死ぬほど頑張ってるからだってさ」 言っている傍から、一際あかるい火球が光る。 「ほら、きっと今のは、立花先輩が焙烙火矢を投げたんだ」 彼の例えに、わぁっと場が沸き、星が流れるたびに誰かの声が響く。 「今のはきっと、潮江先輩がギンギンしてたんだー!」 「じゃああっちのは善法寺先輩が不運回避!」 一つ流れた後にぱらぱらと連続して沢山の星が流れたときには、一斉に口を開いたので何がなんだか分からない。 先ほどとはうって変わった大騒ぎを繰り広げる下級生達に五年生はぱしんと同級生の肩を叩く。 「良いこと言うじゃん、ハチ〜」 「え?」 言われたほうはきょとんと首をかしげて不思議そうな顔。 「天然かよっ!つか、お前は今までずっとその疑問を腹に抱え続けてたって事だな!」 あー、あー、俺達に相談もなかったのかあとひとしきりからかって、この場での最上級生達もまるで子どものように笑いあう。 そんな風に一晩騒いで。いつの間にやら空の端が白み始めてきた。 段々と明るくなる空に流れる星は段々と見つかりにくくなってきたが、それでも時折明るい光が走る。 その数も少なくなっていき、山の端から金色の光が漏れ出すようになった頃。 「ねえ、そろそろ戻ってくるんじゃないかな」 「そっか。迎えに行ってみようか?」 「ばっか!実習帰りに門から帰ってくるか?」 「え?そうなの?」 ニコニコと嬉しそうに、夜半の不安はどこへ行ったんだといいたくなるような笑顔で相談を始める下級生達に、五年生が困ったような顔を見せた。 「あー、盛り上がってる所悪いけど」 「もう、先輩達戻ってきてるよ」 「「「「うそっ!?」」」」 「だって、制限時間は日の出までに先生に報告、だし…」 「ていうか、さっき中在家先輩ここ覗いてたし」 知らされた事実に、そんな事まったく気がつかなかった下級生たちは驚愕する。 「まあ、先輩達だって疲れてるしね」 そんな事を言っているが、きっとここに勢ぞろいしている発端を察しただけに照れくさくて姿を見せないだけだろうなとは思う。 きっと自分達だって同じような事をするだろう。 「さ、お前らもちょっとだけでも寝たほうがいいぞ」 解散解散!と言われて我に返ったようにあくびをしてぞろぞろとそれぞれの長屋に戻ろうとする。 そんな中で。 「あ!」「あ〜」「あ」「あ…」 四つの声が重なった。。 「あ、悪い誰か三之助と左門、部屋まで連れてってくれ!俺ちょっと用事思い出したっ!」 言いながら語尾が聞こえる頃には既に走り出していた作兵衛の後をおって、しんべヱ、喜三太、平太も走り出す。 それを見送ってきり丸は、ぼそりと呟く。 「俺も、図書室行ってみるかな…」 それを受けたほかの者も、顔を見合わせて。 「田村せんぱい〜〜、帳簿確認しますかあ?」 「…間違いなく、いけどんしてますよねえ」 「どこの厠で補充してますかねえ」 「何してるか謎だけど、きっといる」 その後、結局誰も仮眠を取る者は居なかった。 一方の用具委員会の面々が走り出した先はいつもの用具倉庫。 昨日きちんと整備点検はしたけれども。 あの人ならば。 きっと。 「せんぱーい!」 丁度差し込んできた朝日が辺りを白く塗りつぶすのと同時に、用具倉庫の前に立つ影を認めた。 「おかえりなさいっ」 驚いたように振り向いた留三郎にしんベエが体当たりをする。いつもなら軽く受け止めるその衝撃を逃しきれずに身体が揺れたのはやはり疲れがぬぐえないのか。 それに気がついた作兵衛が、続いて飛び込もうとした喜三太を引きとめて、しんべヱも引き剥がす。 少しだけ汚れた装束の留三郎はいつものような笑顔を四人に向けた。 「どうした?こんな朝早く」 「どうしたじゃねーですよ!先輩こそ実習帰りで疲れてらっしゃるのに何で用具倉庫直行してるんですか!」 何でも何も、そういう人だと分かっているからこそ自分達も今ここに来ているのだが。 それを分かっていて留三郎はまた笑顔を向ける。 「すまんな性分だ。つい確認に来てしまう。あ、でもお前らの事信用してないわけじゃないぞー」 「はいっ僕達ちゃーんと昨日頑張って終わらせました!先輩にお仕事残さないように」 得意そうに胸をはった喜三太の頭を一つ撫でて。 開けかけていた倉庫の扉を閉める。 「そっか。じゃ、心配ないなー。確認なんかするまでもないか」 「え?いやあの!ちゃんと確認して下さい!もしなんかあったら!!」 却ってそうされてしまうと、今度は斜め下方向へ想像が進む作兵衛は慌てるが、留三郎はひらひらと手を振った。 「いや、作の確認は信頼してっから大丈夫だろ。なあ?頼りがいあるよな?」 「はーい!昨日も手が寒くならない方法教えてもらいました!」 「…指暖かくなりました」 一年生達に話を振れば、元気良く帰ってくる返事。ふーんと笑って作兵衛を振り返ると顔を真っ赤にしている。 「〜〜!先輩は疲れてるんだから!早く風呂でも入って休んで下さい!」 一年生達から引き剥がし、ぐいぐいと留三郎の身体を押す作兵衛の顔は真っ赤だ。 「分かった分かった。ていうか、お前達も夜着のままだろ…。風邪引くぞ」 そう言えば、なんだかんだと結局一晩中騒いでしまったのだった。 「僕達はー、先輩達の大活躍を数えてたんです!」 「え?」 一体何のことだと目を捲った留三郎だったが、にこにこと笑う後輩達にぐいぐいと背中を押されて風呂場へと追いやられた。 追いやられた先で、同じような経由で雁首揃えていた同級生達と思わず笑い合ってしまったのは後輩達の知るところではない。 留三郎が去った後、にこにこと笑みを湛えながらも平太が一つあくびをする。それが喜三太、しんべヱへと伝染し、しんべヱに至っては顎がはずれそうな大あくび。 作兵衛もあくびをかみ殺しながら、今日の授業は辛いなあとため息をつく。 そこへ走ってきたのは同じく三年生の保健委員。 「おーい、今日の午前は全校授業休みだってー!」 「ほんと!?」 「うん。やっぱり夕べの騒ぎ、先生達全部知ってたみたい」 毎年恒例行事のようなものだと言ってはいたが、夜明かしをしたのは今年が始めてだったようだ。 どうせどの学年も授業にならないだろうとの処置らしい。 「…竹谷先輩の新説のせいかな」 「多分ね。で、今保健委員と学級委員長達が伝令に回ってる…んだけど」 「まて、皆まで言うな。会計委員と体育委員に足りない奴らがいるんだろ?」 「…そう…」 休みと聞いて喜ぶ一年生達を尻目に、結局睡眠取れないじゃないかと盛大なため息をつく三年生であった。 まさかの3年オチ。 すいません、ふたご座流星群ネタを思いついたら思い切り迷走しました。用具話の予定が全校生徒を巻き込み、ふたご座流星群極大日をとうに過ぎ… ええと、冬場の流星群って事で、しぶんぎ座流星群ネタということにすれば間に合いますね。 別になくてもいい註(反転) 夏と冬に流れ星が良く飛ぶ→今で言う、夏はペルセウス座流星群、冬はふたご、こぐま、しぶんぎ座流星群辺りの事 一つ流れるとぱらぱらと連続で飛ぶ→流星群では豆まき効果と呼ばれる現象 大星→シリウス の和名 かにの目星→ふたご座の一等星と二等星 の和名 とかき星→アンドロメダ座の一部 の和名 錨星→カシオペア座 の和名(やまがた星とも) 夜這星→流れ星の別称 |