| 「自覚症状」の続き ぱちり、と。 暗闇で文次郎は目を覚ます。瞬間的にここがいつも己の居る部屋ではない事を認知するが、そう言えば体調を崩したあげくに同室の仙蔵に追い出され医務室で寝ていたのだと状況を思い出した。 すぅっと息を吸い込めば、寝入る前には苦しかったはずの鼻の通りは大分良くなっており、胸にこみ上げてきていた咳き込みも今はほとんど感じられない。喉の奥に僅かに残る痛みのみが先程までの体調の悪さを思い起こさせていた。 伊作の薬と、久々に深く寝入った事もあるだろうが、回復力の速さはやはり日ごろの鍛錬による基礎体力の賜物だなと、文次郎は自画自賛でひそかな自尊心を満足させてから、ゆるりと周囲の気配を探った。 こんな夜中に目を覚ましたのは、自室ではない事以外の違和感を感じたためだ。その正体を確かめるために辺りを伺う。 隣には同じく体調を崩したが、文次郎とは症状が違い熱をだしていた留三郎が寝ていたはずで、奴もこの違和感に気づいただろうかと隣に気を向けた途端。 その、違和感が正に隣から発せられているものだという事に気がついた。 留三郎の呼吸が荒い。短く荒い呼吸を繰り返す様子は明らかに先程より熱が上がってるようだ。 がばりと上体を起こし隣の布団を覗き込んだ文次郎は、呼吸だけではなく留三郎の表情も苦しげに歪められているのを見る。 つい手を伸ばし触れたその頬は、文次郎が想像していたよりも遥かに熱くさすがにぎょっとする。 さすがにまずいのではないか、とか、声をかけようとしてやはりそっとしておいたほうがいいのかも知れない、とか、どう行動を取ろうかと逡巡していたその時に。 びくりと留三郎の身体が大きく跳ねた。 気がついたのだろうかと思うには様子が余りにもおかしすぎる。かけられた布団を跳ね飛ばすような勢いで痙攣を繰り返しているのだ。 「おいっ!どうした?」 いくらなんでも尋常ではないと判断して大声を留三郎へと向けるが、文次郎の声も届いていないようである。 ぐっと身体を折り曲げるようにした直後にまた大きくのけぞって、苦しげに歪める顔をただ呆然と見ることしかできない。 「どうしたっ?」 文次郎の声を聞きつけたのか、不穏な気配を感じ取ったのか、伊作が隣の間から飛び出してくる。留三郎の尋常ではない様子と、その横に片膝を立てて様子を伺う文次郎を見て状況を把握したのか、留三郎へと駆け寄っていった。 「留さん?」 痙攣している手を押さえて伊作は叫ぶ。耳元で叫んでも反応を返さない留三郎に伊作は顔をしかめた。 「熱が上がってひきつけ起こしている!文次郎!留の手、押さえてっ!」 「あ?あ、ああ」 伊作の指示が飛んだ事で文次郎も冷静さを取り戻し、即座に言われたとおりに身体を押さえにかかる。文次郎が渾身の力で抑えても僅かに四肢は浮き上がってしまう。無意識の力とは恐ろしいものだなと頭のどこかで考えながら、伊作へと目を走らせた。 「おいっ、熱さましとか飲ませたほうが良いんじゃねーのか?」 「今の状態でどうやって飲ませるんだよ!」 「っつーか、さっき薬飲ませたんだろうが!効いてねえじゃねえかっ!」 「効きの弱いの飲ませたのっ!」 「なんでだよこの馬鹿タレ!」 夜中だという事も忘れて大声で怒鳴り合うのは、不安や焦りを誤魔化そうとしているのだと頭のどこかでは気がついている。 「緊急時じゃないんだから、熱は無理やり薬で抑えるより出させちゃった方がいい事もあるんだよっ!」 まさかこんな事になるとは思わなかったとは言わずとも伊作の顔にはそう書いてある。 文次郎とて、伊作のいう事は尤もだと知っている。けれどもこの不測の事態が二人を著しく焦らせていた。 跳ねる身体を押さえながら、伊作が大声で留三郎の名を呼ぶ。それに倣って文次郎も声を出していた。 段々と全力で押し留めなければならないほどだった痙攣が弱くなってくる。それに気がついて少し力を抜けば、自分で思う以上に力を張り詰めさせていたのだと漸く気が付いた。 伊作も恐る恐る手を離し、留三郎の様子を注意深く診察していく。 未だ意識ははっきりとしていない様で、今では大分収まったとは言え時折大きく四肢がびくりと揺れていた。 「…一応一山は越えたみたいだけど…。このままじゃまたさっきみたいになるだろうから、今の内に薬飲ませないと」 詳しい事は文次郎には分からないから、伊作のいう事を信じる他は無い。 「ちょっと新野先生を呼んでくるから、文次郎!様子見ててくれる?」 「あ?お、おい…見てるって…」 「痙攣が大きくなるようなら押さえてて。それから舌を噛まないように気をつけて!じゃあ頼んだよ!」 一人残される事に戸惑う文次郎を残し、伊作はさっさと医務室を後にしてしまった。 役割分担を考えれば伊作が教師に症状を報告しに行くのは当然だが、残される文次郎としては詳しい知識を持つ伊作がこの場を離れるのは心もとない。 できれば伊作が教師を連れてくるまでこのまま小康状態を保ってほしいと半ば祈りにも近い心持で横たわる留三郎を見下ろした。 先程伊作と共に四肢を押さえた際に、体勢は文次郎が膝の上に留三郎の頭を抱え込むような形になっていた。窒息しないように頭を持ち上げろと言われ、両手がふさがっていたのでとっさに取った体勢だが、いまさらそれを移動するわけにも行かない。 中腰はキツイが、何かあれば手が伸ばせる体勢でもあるのでしばらくは耐えるしかないだろう。 見やれば、未だに指先が時折びくりと跳ねて、いつまた大きく痙攣を起こすかと気を抜けない。伊作の言うように舌を噛む危険性もあるだろう。 用心のため、手ぬぐいでも用意したほうがいいかと、辺りを探ったその時に。 ぐっっと留三郎の息が詰まるのを感じた。 先程からの様子ではこれはまた大きな痙攣が起きる前兆だ。 はっとして留三郎に視線を戻せば、反射的に口元が開けられている。それを見た文次郎の脳裏に響く伊作の忠告。 − やべえ!舌噛む! そう思ったのは一瞬。頭で考えるよりも先に身体が動いていた。 己の指に絡みつく感触と予想以上の熱さに我に返り、一体何をしてるんだと思ったのと、その指に激痛が走ったのはほぼ同時。 「っ!」 がちりと噛み締められた留三郎の歯の間に己の指がある。 ぎりぎりと擦り合わせるようにされて痛みに呻くが、慌ててもう一本の指を無理やりにねじ込んで歯間を広げた。 ― あぶねえな。今のは本気で舌噛んでただろ… しかもあの勢いではタダでは済むまい。 留三郎の目は開いているが反射的に開かれたもので未だ意識は無いようだ。無理やりに広げた歯には断続的に力が入る。 かと思えば今度は身体全体が跳ねて、危うく指が抜けそうになり片方の手を使ってなんとか押し留めようと文次郎は格闘する羽目となる。 ― 畜生この野郎、面倒かけやがって!! 心の内で、そう毒ついても己に課せられた役目は放棄はしない。そう、それは義務だそれだけの事だと、文次郎は指に絡む熱に気をとられないようにする。 それは随分と長い間だった気もしたが未だに伊作が戻らない事を考えればきっとあっという間だったのだろう。ふと文次郎の指にかかる痛みが引いた。 四肢からも力は抜け、そっと様子を伺えば、未だぼうとした様子ではあるが意識を取り戻したらしい留三郎と目が合う。 反射的に口の中にあるものを排除しようとして、そこに滲む血の味に意識がはっきりとしてきたのか、より明確な意思を持った目が文次郎を見上げてきた。 己の状態と、文次郎とのこの状況は正確に把握したのだろう。様々な感情をない交ぜにしたような困った表情を浮かべている。 不愉快そうに何をしているんだとつっぱねるには、文次郎にかけたであろう迷惑は自覚しているようでそれもできない。素直に侘びを入れるにも、口の中にある物が気になって仕方がない。 困ったように取り合えず口の中指を押し出そうとする舌の動きに、先程までとは違う熱さを感じて文次郎の背筋にぞわりとした感触が走る。留三郎の舌の動きに逆らって指に力を込めて口内に留めた。 「も、んじろ…」 もう大丈夫だから、とでも言いたげにくぐもった声を出す。その動きにすら背中を走る物があったが、文次郎は小さく首を振ってやり過ごした。 その動きをどう捕らえたのか留三郎の眉が僅かに寄せられた。 「…ふんっ、その指が止まってから寝言は言うんだな」 留三郎の誤解を敢えて訂正する事もせずに文次郎はことさら冷たく言い放つ。 意識を取り戻したとは言え、ぐったりと投げ出された手は未だに小さく震えて、時折ぴくりと指が跳ね上がっている。 意思だけではどうにも制御できない反射的な動きに留三郎は悔しそうにそれを認める他はない。 ぷいっと文次郎から視線をそらせてから、留三郎は諦めたように目を閉じた。 それを良い事に文次郎は上から留三郎をじっと見下ろしている。その姿を見て思うのは仮にも好敵手である相手の不甲斐なさなのか、それとも柄にもない心配なのか、あるいは。 文次郎が己の心情を深く考えようとする前に慌てた二つの足音が聞こえた。 ああ、やっと来たかと思う暇もなく、戸が勢い良く開けられる。それと同時にすっと指をひき抜いた。 「文次郎っ!様子はどう?」 自分が居ない間の留三郎が心底心配だったと言わんばかりに飛び込んできた伊作に、人に後を任せておきながら信用の無い事だと埒もない事を考えながら、的確に状況の報告をする。 「今、意識は戻ったみたいだ。その直前に一回でかい痙攣が起こったが舌は噛んでねえよ」 それだけを聞くと伊作は留三郎に向き直り、新野を手伝い始めた。 そりゃ随分な態度だなと肩をすくめて、文次郎は鼻をすする。どうやらこの騒ぎで少しぶり返してきたようだ。確かに布団から跳ね起きたままいたのだから仕方が無いだろう。 「おい、お前の布団、借りるぞ」 先ほどまで伊作が寝ていた隣の間に足を運びながらそれだけを吐き捨てる。 伊作から返事は来なかったが、駄目だと言われなかったのを許可と受け取る事にして勝手に布団を被る。 かすかに聞こえてくる水音や低い話し声を無理矢理遮断するように、文次郎は布団に頭ごと潜り込んだ。 耳を塞ぎ、目を閉じても、指に感じた熱さが消える事はなく。 硬く目を瞑って強引に何も考えないようにしたのに、とっくに止まった筈の血が指先からいつまでも流れているような気がした。 ふっと意識が浮上するのを感じて、文次郎は己が寝入っていた事を知る。なんだかんだとやはり身体は休息を求めていたらしい。 大きく息を吸い込み、喉の奥からこみ上げる咳も痛みもなく、鼻の通りを阻害するものもないのを確認しそっと起き上がった。 隣は静まり返っていたが、そこには複数の気配がある。新野も伊作も起きているようであるが何の物音もしない事から留三郎の状態は落ち着いている事が知れた。 そのまま文次郎は音もなく起き上がる。ひんやりとした空気は既に朝の気配だ、このまま起床しても構わないだろう。 足音一つ立てずに隣の間へと出ると、ちらりと伊作がこちらを向いた。 声には出さず、様子はどうだと目で問えば、若干和らいだ目線で心配は要らないことを告げられる。代わりに、こちらを検分するように頭の先からじっくりと視線を走らされた。 めまいがする事もなく、喉も鼻も元通り、頭痛もなく、おそらくは顔色も悪くないし、気分も悪くはない、自信を持って伊作の視線に真っ向から対抗すれば、何も言わずに伊作の視線は外されて元の通りに留三郎へと戻された。 どうやら伊作の検診には合格したらしい、行っても構わないのだなと受け取って、文次郎はそのまま静かに医務室を出た。 そのまま朝の冷たい空気の中、廊下を歩く文次郎の脳裏には医務室を出る前にちらりと見えた留三郎の様子が浮かぶ。 うなされている様子もなく、静かな寝顔であったから、きっと様態は落ち着いているのだろう。 「ふん、手間かけさせやがって。たるんどるっ」 ま だ床についている留三郎とは違い、既に全快した自分の方が、回復の勝負には勝ったなと無理矢理な自尊心を満足させてみるも、実際の所留三郎が、更にあの後 にもう一度川底からボートを引き上げていた事や、雨の中作業を進めていた事などを伊作から聞いていたので、まったく同じ条件とは言えない事に本人も気がつ いている。 取りとめもない事を考えているその隙間にふと昨夜の指の熱さが蘇り、文次郎は首を振った。 「ええいっ!昨夜遅れた分、今日は早朝鍛錬だっ!」 大声で叫べば、いつの間にか到着していた自室が開き、同室の者が思い切り頭を殴ってくる。 「朝っぱらからやかましいっ!病み上がりくらい静かにできんのか貴様は」 「お前こそ病み上がりの奴を労わろうという気持ちはないのかっ!」 「病み上がりの者を労わる気なら多少持ち合わせているが、病み上がりの文次郎を労わる気持ちは持ち合わせておらんな」 「おまえなっ!」 まるで漫才のような掛け合い。そんな日常にやはり先程の精神の乱れは気のせいだと頭の片隅へと追いやろうとする。 そこへ、隣室から小平太が顔を出した。 「お、文次郎!もう治ったのか?これから走りに行こうと思うんだが一緒にどうだ?」 渡りに船とばかりに文次郎は賛同し、あきれる仙蔵の視線は流す。 「おう。着替えてくるからしばし待ってろ」 「わかった〜」 文字通りあっという間に着替えを終えて再び廊下へと出てきた文次郎へと小平太が屈託なく問うた。 「そーいえば、留三郎も昨日風邪引いたんでしょ?いさっくんが大騒ぎしてたけど。留三郎は治ったの?」 意識的に思考の片隅へと追いやっていた事を、見事に直球で掘り当てられた文次郎はしばし二の句が告げなくなった。その隙に仙蔵が意外そうな声を上げる。 「ほう。留三郎も風邪か。まったく二人してそこまで張り合う事もなかろうに」 その言い様に小平太があははと笑う。 「あいつは鍛錬が足りんからなっまだ寝てるわっ」 がなりたてる文次郎に、二人はまた笑う。 「なんだ、本当にどっちが早く治るか喧嘩してたのか」 「あはははっ!私はその喧嘩は参加できないや〜」 「お前は風邪引いたことなどないからな」 「何がいいたいのかな〜。って、文次郎??」 軽口を叩き始めた二人がそろって文次郎を見る。 「あ?なんだよ」 「いや、変な顔してるけど・・・どした?本当はまだ具合悪いんじゃないか?」 「顔が変なのはいつもの事だが、確かにお前可笑しいぞ」 「うるせえよ!…って変て何だ変て!どこもおかしくなんてないだろ!」 「いや、おかしい」 「医務室で何かあったのか?」 畳み掛けるように追求してくる二人を振り切って、文次郎はきびすを返す。 また熱くなったような指先をぎゅっと握って拳を固める。 「ふん、くだらん」 仙蔵は興味もなさそうに早々に自室へ戻るがその口元は、楽しいおもちゃを見つけた童子の様に笑っていた。 「あ、待ってよ文次郎〜!私も行くってばー!よーしっ!競争だー!!」 小平太は既に目先の走りこみで頭がいっぱいのようだった。 結局授業が始まるまでに、いつもよりも長距離を我武者羅に走ってきた文次郎は、体調に変化はなかったものの、目だけが本気の笑顔の伊作から攻撃を受ける事になる。 「治ってんだから、いーじゃねえか!」 「お前は自重って言葉を覚えろって言ってるんだ!」 面白がっている小平太以外は伊作の味方ばかりなので文次郎には分が悪い。 「留さんみたいにおとなしく寝ててくれればこっちも楽なのに」 「そう言えば、留三郎はまだ治らんのか?」 仙蔵の質問に、ようやく文次郎への攻撃をやめた伊作はひょいと肩をすくめた。 「うん。ちょっと熱が高くてね。夕べもひきつけ起こしてたし体力消耗したから最低今日一日は安静だよ」 「なるほどな。…この馬鹿ならそれでも静かになんてしてないだろうがな」 それは言えてる、と伊作が賛同した所で文次郎は早々にその場を逃げ出した。 この場に留まっても体調管理に延々と文句を言われるか、それとも。 またおかしな顔をしていると言われるだけだ。今度ばかりは自覚がある。今の自分は絶対におかしな顔をしているだろう。 「くそっ」 誰とはなしに、虚空に向かってついた悪態は、そのまま空へと溶け込んでいった。 伊作の監視の下、きちんと療養をした留三郎は翌日には授業へも復帰した。 案の定気に病んだ委員会の後輩が、自分が死にそうな顔して見舞いに来たのが効いたらしく無茶をする事もなく療養に専念してくれたとは伊作の弁である。 消耗した体力が回復しきってはいないのか、授業も無理はせず自重をしている様子に、伊作も満足げだ。 「間違っても喧嘩ふっかけないでよ」 そう釘を刺されて、ふんっとそっぽを向いたが、顔を付き合わせる機会なんてものは向こうからやってくる。 廊下の端と端からやってくるのを互いに視線を合わせて。 丁度真ん中で向かい合う。 「やっと、治ったのかよ」 伊作がこの場に居れば間違いなく喧嘩売るなと怒られる物言い。 「お前みたいな馬鹿じゃないからな」 売り言葉に買い言葉で返してくるのはいつもの事。 「たかが風邪程度であんな騒ぎ起こすんじゃねえよ」 この件に関しては弱みを握っているのはこちらの方だ。留三郎は、悔しそうに唇を噛むがあの一件で文次郎に迷惑をかけた自覚は充分にある。 「…悪かったな。お前も寝込んでたってのに」 珍しく殊勝な言葉を吐くが、嫌々ながら言っているのが見え見えだ。そんな様子に鼻で笑って文次郎は続けた。 「あれしきでひきつけなんぞ起こすのは鍛錬が足りん証拠だ馬鹿タレ」 更に続いた挑発まがいの言葉に、一応は譲歩を見せていた留三郎もカチンとくるのは致し方ないだろう。このやろうと、いつもの喧嘩に発展しかけた所で。 「…二度と起こすんじゃねえよあんなの。あんま心配させんじゃねえ」 まっすぐに吐き出された言葉に、留三郎はぽかんとしてそのまま固まってしまう。 今この男はなんと言ったのだろう。 皮肉な顔もせず、大真面目な顔で、まっすぐにこちらを見て。 「もうごめんだからな。多少の熱ぐらい、へでもないように日頃から鍛錬しとけってんだ」 何がもうごめんなのか、文次郎は言わない。 迷惑をかけられる事なのか、それとも、その直前に吐いた言葉なのか。 やはりまだ固まっている留三郎に向かって、何事もなかったようにいつものような言葉。 「落ち着いたら、水軍んとこ行くんだろ?それまでに体力戻しとけよ。馬鹿にされるぜ」 ふんっと鼻で笑って、するりと横を通り抜けるその瞬間に、留三郎が呟いた。 「お前こそ、自重もしないで水軍行く前にぶりかえしてんじゃねえぞ」 それには返事をせずに、そのまま通り抜けて。 どうやら寝入る前に交わした会話は、有効であるらしいと文次郎は口の端をあげるのであった。 共に再びあの地を訪れるのが嬉しいと、素直に思える事に、腹をくくってしまえば度胸は据わるこの男はにやりと不敵な笑いを浮かべるのであった。 文次郎自覚編。 へたれかつ無自覚タラシな文次郎です。留さんは未だに無自覚。 相変わらずだらだらと続く無駄な文章。 全体の9割で留三郎が意識なしという体たらくですが、文食満だと言い張る。 大変お待たせしすぎてもはや待たれていないかもしれない、「自覚症状」の続きでした。 |