| 「うひゃー、竹谷先輩っ!また脱走してますー!」 生物委員会は委員会活動の五回に一回、いや三回に一回はこんな叫び声で幕を開ける。 「何ぃ!捜索だ!行くぞ!って、孫兵はどうしたー?」 「伊賀崎先輩なら、ジュンコ探しに行ってます」 「あっちも脱走かー!」 生物委員会とは、学園で飼育されている生物の世話をするのが仕事なのか、逃げた毒虫達を捕獲するのが仕事なのか分からないと専らの噂であるが、あながち間違ってはいないだろう。 今日も今日とて生物委員の面々は脱走兵達を探すのにおおわらわなのであった。 「先輩ー、この虫かごもう駄目ですよー」 「うーん、応急処置を繰り返したがさすがにもう限界かな。もっと根本的に修理しないと…」 虫達が逃げたと思われる穴を覗き込みながら下級生達が泣き声をあげている。 確かにこの有様ではせっかく捕まえてもまたすぐに逃げ出してしまうだろう。 竹谷はうーーんと唸ってから目の前の一年生達に声をかける。 「よし、じゃあ三治郎と虎若はこの虫かご持って用具委員の所に行ってくれ。修理をお願いしますと頼んでほしい。その間に俺と孫次郎と一平は虫達探しに行くぞ!で、孫兵を見つけたら俺達に合流させる。三治郎達が孫兵見つけたらそう伝えてくれ」 「はいっ!」 指示を受け二人が走っていくのを見送ってから竹谷は残った後輩を連れて虫達の習性から考えられる場所へと向かうのであった。 「用具委員って今しんべヱと喜三太だったよね」 「うん。二人ともいるかなあ?」 虎若と三治郎が大量の虫かごを持って用具倉庫へと向かうとそこには幸いと言おうか、用具委員会全員が揃っていた。 「あのー、すいません。生物委員会ですけど」 虎若が用件を告げる前に、用具委員長が振り向いて事態を察する。 「ああ、虫かごの修理か?」 「はい…あの、お願いできますか?」 申し訳なさそうな三治郎に食満は勿論だと大きく頷いたので二人はほっとして抱えていた虫かごを地面に置いた。 「ひゃー、これ全部か?」 「そ、そうなんです」 驚きの声を上げる作兵衛にますます縮こまる二人であったが、慌てた作兵衛がぶっきらぼうに気にすんなと頭をなでる。 その間に虫かごの一つを手に取って検分していた食満が感心したようにつぶやいた。 「ほう……結構こまめに手入れはしてあるな」 「あ、はい。竹谷先輩がちょこちょこと修理はしてらっしゃるんですが。もう限界だという事で用具委員会にきちんと治してもらった方が良いという事になりまして」 虎若は緊張しながらもしっかりとした説明をする。 「なるほどな。確かに、ここまで来たら、元から作り直した方が良さそうだ」 虫籠をまじまじと見つめて食満はふむと呟いた。 そこへパタパタとやってきたのは虎若たちと同級の一年生。 「あ、虎若、三治郎〜!虫籠の修理?」 「…一発で当てないでよ…その通りだけどさ」 「一平と孫次郎は竹谷先輩と、脱走した虫捕まえに行ってるんだー」 和気藹々とおしゃべりをしながら、今の状況を説明する生物委員の二人に、食満はぴくりと眉を上げた。 「…今、虫たちは脱走中なのか?他の委員達が捕獲中?」 真剣な顔で尋ねてくる食満に、先ほどは言わなかった情報を肯定すべく、二人は頷いた。 「そうか…じゃあ、あまり時間に余裕は無いわけか…」 少し思案するようなそぶりを見せて、食満は作兵衛を手招きした。 「はい?」 とことこと寄って来た後輩に、自分が持っていた虫籠を手渡して。 「どうだ?作ならこれに今まで施してある応急処置のやり方わかるよな?」 突然の事に目を白黒させながらも、そんな言い方をされれば期待を裏切るわけに行かない。 渡された虫籠を目の前にかざし、生物委員の上級生が施したと言う修理箇所をじっと見つめた。 「えーっと、裏側からの補強とそれから強度増すために…ここは…、ああ、目立たないように編んであるのか。それからー、こっちは、こことここ、結んで貼り付けてありますね」 応急処置とは言えかなり丁寧な仕事だ。また、一つ一つが場当たりではなくきちんとした手順を踏んでいるので他の籠もきっと同じように修理されているのだろう。 おかげで作兵衛にも作業は検討がつき、恐る恐る目線を食満に戻せば、満足そうに頷く委員長の姿。 「さすがだなあ〜」 と手放しで褒められて照れくさくてそっぽを向いたけれども、ぐりぐりと撫でてくる手は振り払えはしなかった。 「じゃあ、それと同じようにもう一度修理しなおしてくれるか?そんで、それを一年生達にも教えて一緒にやってくれ。あ、勿論虎若と三治郎も一緒にだぞ」 「「「「「「えええええ!?」」」」」」 驚愕の声の大合唱にも食満はにこにこと笑うだけだ。 作兵衛はそんな事荷が重いのではないだろうかと自信がなさげだし、用具委員会の一年生達は、山のように積まれた虫籠を前にげんなりとしている。 そうして、虎若と三治郎は、困ったように顔を見合わせていた。 「あ、あのお〜。僕達…応急処置じゃなくて、ちゃんと元から直してもらうようにって言われてきたんですけど…」 今までと同じ応急処置を施されるのでは、わざわざ用具委員会に来た意味は無い。またすぐに虫たちは逃げてしまうだろう。 竹谷の意思を汲んで、おずおずと物申してくる二人に、食満はにっかりと笑って告げた。 「ああ。分かってるって。心配するな。だけど、ちゃんと修理するには時間が掛かるだろ?逃げた虫たちを捕まえて戻ってくるまでに終わってなかったら話にならない」 それは尤もである。 「だから、まず作兵衛とお前達が手分けして、半分を応急処置してくれ」 「はんぶん?」 聞き返してきたのは、しんべヱだった。大量の虫籠にはげんなりしたが、半分でいいと言うのならば頑張れそうだ。 「そう。その間に俺が頑張って残りの半分を、ちゃんと直すから。それならきっと間に合うだろう?その後で残りの半分も改めて直すさ」 ああ、なるほどーと一堂は納得をする。生物委員会には予備の虫籠などはないし捕獲してきた虫たちを収容するには、時間的にもそれしかないだろう。 時間的なものを全く考えに入れていなかったことを、虎若と三治郎は恥じ、先輩を疑ってしまった事を素直に詫びた。 そんな事を気にする風もなく、食満は更に続ける。 「それにな、お前達が作業を覚えて、それを孫次郎や一平にも教えてやって皆で作業するようになれば竹谷もすごく楽になるんじゃないか?」 孫兵はやり方知ってるだろうしなあ〜と、なんでもない顔で言ってのける食満に二人は内心で驚いていた。 虫たちが逃げれば先頭に立って捕獲に向かい、その合間を縫って籠の手入れも行っている。それでいて当番制の世話だってきちんとこなしている竹谷に、いつだって一年生達は申し訳なく思いながらも、自分達にできる事は限られていて、歯がゆく思っていたのだ。 まるでそれを見透かされたかのようで、けれども食満が当たり前のような顔をしてそれを言うから。 だから、二人はにっこりと笑って大きく頷いたのだった。 「はいっ!僕達ちゃんと覚えて帰ります!!」 「富松先輩!宜しくお願いしますっ!!」 「お、おうぅっっ」 俄然やる気を出した二人に頼られてまんざらでもない作兵衛。更に負けじとしんべヱ、喜三太、平太にも三人を囲む。そんな様子を食満は笑って見つめていた。 「さーて、じゃあちゃっちゃと作業始めるぞー!!急がないと生物委員が虫全部見つけちまう」 「「「「「「はいっ」」」」」」 山と積まれた虫籠を前に作兵衛達は座り込みそれぞれの手に壊れた虫籠を持っている。 「先輩、これは?」 「あー、この場合は、こっちから、こう…」 「あ、分かりました!ありがとうございまーす!」 壊れ方に応じて異なる修繕を施されたそれらを作兵衛はきちんと後輩達へと説明しやり方を丁寧に教える。 一人一人の作業は早くは無いが、これだけの人数がいるのでそれなりに作業は進む。 その脇で、同じように座り込んだ食満の手は一人誰よりも複雑な作業をこなし素早く動いていた。 後輩達が修繕し積み上げていく虫籠の山とは別の位置に、しっかりと作り直した虫籠を積み上げていく。 「ところで、三治郎ー」 「は?はははあいいい!」 作業の手を止めることなく、唐突に食満が三治郎に話しかけた。驚いて手の中の籠を落としかける三治郎に、おちつけと笑いながら言って、食満は続ける。 「こ の間古くなった道具を解体してな。勿論使える部品は再利用するためにとって置くんだが、それ以外にも…学校の備品としてはちょっと無理だがという程度の物 がいくつか残ってる。お前と兵太夫なら何かに活用できないかなと思ってそっちもとってあるんだ。今度時間があるときに二人で覗きに来てくれ。良かったら 持ってっていいぞ」 「ええっ?本当ですかー?」 途端にらんらんと目を輝かせた三治郎。実は常日頃同室の兵太夫と共に食満には世話になって いた。からくりに関する助言を貰ったり、どうしても上手くいかない作業を教えてもらったり。時には修補には使えないような廃材の中からからくりになら使え そうな物を譲り受けたりもしていたのだった。 「ああ、兵太夫にも伝えておいてくれ」 にっこりと笑って返事をした三治郎の手が止まりそうなのを周りの皆で突っ込みを入れる。その息の合いっぷりに、また全員で笑ってしまいなんとも和やかな雰囲気のまま作業は行われていた。 そうこうしているうちに、虫籠の山は少しづつその高さを減らしていく。 そこへばたばたと走りこんできたのは、別行動をとっていたもう一人の生物委員。 「あ、伊賀崎先輩っ!」 「ジュンコ見つかったんですか?」 「見つかったら竹谷先輩達に合流してくれって言ってましたよー」 彼が口を開く前に畳み掛けるように、自分の後輩達に言われ、何がなんだか分からないように食満と二人の間に視線を何度も走らせる。 「え?え?」 どうしてここに二人がいるんだろうかと思案して、漸く目の前にある虫籠に目が行った。 「…もしかして、また虫が逃げた?」 はいっっと頷く虎若と三治郎。 そんな三人の様子から、どうやら孫兵は委員会の方の事情は知らなかったらしい。ジュンコ捜索に当たっていたと言えば聞こえは良いが、要するにそれは自己責任の後始末でもある。 尤も生物委員会の面倒見ている虫達にはかなりの部分孫兵の個人的な飼育物も含まれているからその境界線はかなり曖昧だ。 「まあ、とりあえず。孫兵、何か用事があるからここに来たんだろう?」 そう食満がとりなせば、はっと気がついたように孫兵は手に持っていたものを突き出した。ちなみにその首から手にかけてジュンコが絡み付いている。 「そうだっ!これ!!」 「ん?蛇の捕獲用の袋か?穴があいてしまってるな」 てっきり修理依頼かと思いその袋を受け取ろうとしたが、孫兵はしっかりと掴んで放さない。どうやら修理をして欲しいわけではないようだ。 「ええ!この穴を直したいんですが、もっとこう…ジュンコが快適に過ごせるように改造してやりたいと。それからもうちょっと扱いやすくできるかなあと思いましてご意見を聞きに来たんです」 なるほどなあと思いながらも、食満は手を虫籠の修繕の手は止めず、差し出された袋に視線を走らせる。 いくつか考えられるアドバイスをして、その中で孫兵が納得した物の作り方を口頭で説明をする。 ふむふむと頷きながらも少し不安そうな彼の表情にやっぱりやってやろうかと問えば、物凄い勢いで首を横に振られた。 「いーえ!ジュンコのために僕がやるんです!その位は飼い主の責任です!人にやってもらったらジュンコに嫌われちゃいますよ!」 それを聞いた食満は、そうか、とだけ返してより丁寧に説明を繰り返した。 横から聞き耳を立てていた虎若と三治郎が更に熱心に虫籠の修繕に当たったのは言うまでもない。 予想以上に作業がはかどり、修繕が終わっていない虫籠の数が残り少なくなった頃、熱心に耳を傾けていた孫兵がくるりと振り向いた。 食満も気付いて視線を投げる。 「おう、ご苦労さん。全部捕獲は終わったのか?」 そんな言葉にやっと気がついたように虎若と三治郎も集中していた作業を中断し顔を上げた。 そこには埃まみれになった生物委員会の面々。それぞれに網や袋を持って立っていた。 「あ、先輩。合流できなくてすいません」 孫兵が一言謝れば、竹谷はにっかりと笑う。 「気にすんな。ジュンコは見つかったんだろ?そっちも壊れてたみたいだなあ」 はははっと笑って孫兵の手にある袋を見る。それで孫兵が合流せずに用具委員のところにいた理由を察したようだった。 「お疲れさん。申し訳ないが数が膨大だったんで、注文通りの修理はまだ済んでないんだ。間に合いそうもないと判断して、半分は今日のところは今までの応急処置で済ませている。残りはできるだけ早く済ませる」 「あ、いえ。こちらこそ無理を言って済みませんでした。的確な判断ありがとうございます。危うくこいつら今晩宿無しにさせるところでした」 言いながらひょいと持ち上げた手にぶら下がる袋の中には、何かがうじゃうじゃとうごめいているのがはっきりと見えて、平太は思わず、ひゃーっと呟いて顔をしかめた。 そんな会話をしているうちに、虎若が最後の一つを処置を終え、食満の手の中の籠が新しく蘇った。 「ああ、これで一応終了だ。はやくその窮屈そうな袋から出してやれ」 竹谷は笑って頷くと受け取った虫籠に捕獲した虫達を移動する。 「まあ、結局こいつらにとっちゃ籠も窮屈でしょうけどね」 なんて軽口を叩きながら。 袋からうぞうぞと這い出す虫達に、しんべヱも喜三太も平太も顔をしかめて食満の後ろへと隠れてしまう。それを見ながら作兵衛は、しんべヱと平太はともかく、喜三太はナメクジ平気なのに何故…などと思うのは当然の事である。 「ところで…」 次の袋から虫を移しながら、竹谷は話を変える。ちらりと移した視線の先では、一平と孫次郎がそれぞれ自分達の捕獲してきた虫を虎若や三治郎に手伝ってもらいながら他の虫籠へと移していた。 「あの二人は…」 そう尋ねるのは使いに出したはずの虎若と三治郎のことだ。修理を頼みに行かせたはずがなぜか作業まで行っていたのはどういう訳だろう。そんな疑問を顔に張り付かせている。 「ああ、ちょっと手が足りなかったんで手伝ってもらってたんだ。済まなかった。でもおかげで籠の修繕が間に合った」 「あ、いえ…」 無理を頼んだのはこちらの方で、手を貸すどころか好きなように使ってくれてまったく構わないのだが。先程見た限り、手伝うどころか彼らができなかった作業を完璧にこなせるようになっていなかっただろうか。 それはつまり…そう竹谷が頭の中でぐるぐると考えていると、当の本人達が慌てたように駆け寄ってきた。 「違うんです!先輩。僕ら、お手伝いするどころか」 「修繕のやり方を教えていただいてたんです」 自分達に教えるという工程がなければ作業はもっと順調に進んだはずだろうに。そんな手間までをかけて。 「僕らがこれを覚えて、それで一平たちにも教えられれば」 「竹谷先輩の負担が減るだろうって…」 え?え?と、先程の孫兵と同じようなしぐさで竹谷は、虎若、三治郎と食満の間を視線を行ったり来たりさせている。 「わー!二人とも修理覚えたのー?教えて教えてー」 「難しい?僕にもできる?」 話を聞きつけた一平と孫次郎が二人に問いかけてそれに笑顔で答えた。 「うん!任せて!これで修理も皆でできるよねー!」 きゃいきゃいと盛り上がる一年生に、竹谷は目を見開いたまま呆然とする。 「全部しょい込むのもお前らしいとは思うけどさ。あいつらだって、お前の役に立ちたいと思ってるって事だよ」 言われた言葉に、あーあと頭を掻きながら困ったような照れ笑い。 「…一年生にまでバレバレで心配されるって…俺、駄目ですねえ」 理想はさらりと格好良く。当たり前の顔をしてやってのける事だったんだけどなあと自嘲の笑みを浮かべた。食満先輩みたいにね、との言葉は飲み込んで。 するとそれまで我関せず、我が道を貫いていたかに見えた孫兵がぼそりと呟く。 「もう、ジュンコは逃がさないようにします…多分、なるべく…できるだけ…。だから捜索も籠修理もちゃんと参加しますよ」 心配して気に病んでいたのは何も一年生だけじゃないんだと拗ねたような物言いに、もはやぺしゃんことなっていた己の自尊心などどうでも良い小さな事となる。 孫兵の頭に向かって延ばされた手は、途中で進路を変えてその腕に巻きつくジュンコの頭を一撫でする。 そんな生物委員会の面々に、用具委員長は笑って言った。 「いいんじゃないかなあー生物委員会はそれで。なんかこう…家族って言うか兄弟みんなで協力しあってるような雰囲気でさ」 いやいやいやいやアンタがそれ言うなよ、とは思ったけれども。なんだか笑いがこみ上げてきてそのまま逆らわずに噴出してしまう。それをどう取ったのかは知らないが、食満はにこにこと微笑ましそうにこちらを見ていて正直居心地が悪い。 「でも、やっぱり俺はちょっとだけでも先輩らしくありたいですよ。だから、食満先輩。ちゃんとした虫籠の直し方教えてくださ」 言い終わる前に、目の前の先輩の顔が大きくゆがんで。噴出す一歩手前の顔できっぱりと断られてしまった。 「用具委員のお株を奪うな」 にべもない言葉に、むうっと口を尖らせた。 「じゃあ、ずーっとこの先お世話にならなきゃいけませんよ?それでもいいんですか?」 「まあ、それが用具委員の役目だしなー」 反論しても、のらりくらりとかわされる。更には横から出てきた別の人物が、食満と竹谷の間に立ちはだかる。 まだまだ竹谷の身長には及ばないくせに、堂々と下から視線を送って。 「修繕の技教えてもらうのはこっちが先です!」 そう、まるで宣戦布告でもするかのような、良い目つきで言うものだから。これは勝ち目は無いなと引き下がる。 面白そうにそれを静観していた用具委員長が一言。 「ちゃんとあいつらの先輩らしいだろ、お前は」 その一言で大分満足だ。 「お騒がせしました。じゃあこれ引き取らせてもらいますね。大量なのにありがとうございました」 「ああ、残りの分はすぐに俺と…あと、作兵衛で修理しに行くよ。虫がまた脱走する前には必ず」 「…分かりました。お願いします」 作業を教えて貰えると約束をしたに等しい三年生が目を輝かせているのを尻目に、竹谷は虫達を移し終えた籠を持つ。 後輩達にも手分けして持たせて、歩き出す。 後ろを着いて歩く一年生が、互いに別行動の間の話をし合っているのをなんとは無しに耳に入れて。 「じゃあ、あとでやり方教えてね」 「うん。でもよくあれだけの虫、三人だけで捕まえたね」 「えー、だって竹谷先輩すっごかったんだよ!」 「へえー!」 「こうね、ぱぱぱぱーってぱしゅーん!んでもってずさー!!」 「あはははっ何それ!説明になってないよー!」 「でもそうだったよねー!」 「ねー!すごかったんだもん」 「さっすが、先輩ー!」 無邪気な会話が、ちょっとだけ気恥ずかしいが、なんだか嬉しくて、竹谷はそっと鼻の下を擦る。 すると、横から聞こえてきた声。てっきりジュンコに話しかけているのかと思ったらどうやらこちらに話していたらしい。慌てて孫兵の声に耳を傾ける。 「…さっき教わったジュンコ捕獲用の袋の改造なんですけど。これ、虫籠にも応用できないかと思って。環境が快適なら脱走も少なくなるんじゃないかと」 「へえ、そりゃいいな。是非あとで聞かせてくれないか?」 「はい…。で、先輩がいけると判断したら、皆で作業できると思います」 どちらかと言えば個人行動の多い孫兵だったけれども、コイツもコイツなりにちゃんと考えてるんだなあと思う。 自分で考えて、判断を仰いで、下級生と一緒に作業をするつもりで…。 傍から見たら、さっきの用具委員の六年生と三年生のように、ちゃんと互いの信頼関係成り立っているように見えるかなあ、そうだといいなあと竹谷は思う。 ふと、脳裏に先ほどの食満の「お前はちゃんと先輩らしいよ」という言葉が浮かんで、笑みを濃くする。 「よーし!!今日はみんなご苦労さん!ありがとな!」 傾きかけた太陽を背に、にっこりと笑って解散を告げる竹谷の声に、後輩達の元気な返事が重なって、夕焼けに溶け込んでふわりと消えた。 生物委員会の一日…のはずがどうしても用具を絡めたい管理人。 生物…の割りに一平や孫次郎の影が薄くてすみません。いや虎若もか。 からくりコンビと食満が仲良しなのは、42巻の逆茂木云々のやり取りから妄想です。でも絶対多少の指南はしてると思う…。 ※委員会中心なので5、6年生のみを名字表記、下級生を名前表記にしております。 |